熟年離婚とお金について押さえておきましょう
【熟年離婚】第5回 養育費、相続その他
これまでのコラムでは,熟年離婚の特徴ともいえる財産分与,慰謝料の高額化や年金分割の重要性について見てきました。
最後は,これまでと視点を変え,子どもや相続をめぐる問題について,どのような点が争いとなるのかを見ていきたいと思います。
養育費
子どもが幼い段階で離婚をする場合は,その先の養育費をいくらにするかということが大きな問題になります。離婚後,子どもが成人するまでの期間が長いため,それまでにどれだけの費用を確保できるかという点が重要になるからです。
他方,熟年離婚の場合,子どもがある程度の年齢に達しているか,すでに成人しているというケースが多いため,養育費の金額をいくらにするかという点が深刻な争いになるケースはあまりありません。
もっとも,熟年離婚の場合,夫婦間の所得の格差が大きく,また,夫の収入が高額になるケースも少なくありませんから,必然的に,養育費も高額になります(妻が親権者となった場合)。
また,子どもがある程度の年齢になると,高校卒業後の大学進学の見通しも立ちやすいことから,養育費の終期を大学卒業までとされる可能性も高まります。子どもがすでに大学に入学しているようなケースでは,この可能性がさらに高まるでしょう。
一般に,中学→高校→大学と進むにしたがって学費や教育費も増えますので,熟年離婚の場合には,高校や大学の進学に伴う高額な費用をどのように負担し合うのかという点が,現実の問題としてクローズアップされることになります。
面会交流
婚姻期間が短い夫婦の場合,子どももまだ小さいというケースが多いため,離婚後の子どもとの面会交流をどう実施していくかという点について,親の感情を切り離せないケースが目立ちます。
親権者となる親が,他方の親に子どもを会わせたくないとして,深刻な争いになるケースも少なくありません。
これに対し,熟年離婚の場合,子どもがすでに成人しているか,成人していないとしてもある程度の年齢に達しているというケースが多く,面会交流が深刻な問題になるということはあまりありません。
また,子どもがある程度の年齢に達しているケースで面会交流を実施する場合には,子どもの意思がかなり重要になりますので,夫婦間で争うよりも,子どもの意思が優先されることは間違いないでしょう。
実際,熟年離婚の場合,「会いたいときに会ってよい。」,「子どもの意思に任せる。」というように,子どもの意思に応じた柔軟な対応がなされる例が多くみられます。
離婚給付と相続
あまり考えたくないことではありますが,熟年離婚の場合,夫婦の年齢が高いことなどもあり,離婚した後間もないうちに,離婚給付(財産分与や慰謝料の支払い)が完了しないまま,一方が亡くなるというケースがあります。
このような場合,本来支払うべきだった慰謝料,分与してもらえるはずだった財産はどうなるのでしょうか。
離婚給付の義務者(慰謝料を払う側,財産を分与する側)の死亡
(1)慰謝料
慰謝料債務は相続されます。義務者(慰謝料を支払わなければならない側)の相続人は,相続放棄をしない限り,慰謝料を支払う義務を負います。
(2)財産分与
財産分与の義務が相続の対象となるかについては,議論のあるところですが,清算的財産分与(夫婦が婚姻中に協力して得た財産を,離婚を機に清算するもの。一般に,財産分与というとこちらをイメージされる方が多いと思います。)義務,扶養的財産分与(離婚後の一方当事者の生計の維持を目的とする財産分与。補充的なものとされています。)義務のいずれについても,相続を認めた裁判例があります(大分地裁昭和62年7月14日判決)。
もっとも,扶養的財産分与については,扶養という性質上,相続性を否定する考え方も有力です。
離婚給付の権利者(慰謝料をもらう側,財産を分与してもらう側)の死亡
(1)慰謝料
離婚に基づく慰謝料に限らず,慰謝料請求権は,金銭債権であることから,一般に,相続の対象になるとされています(最高裁昭和42年11月1日判決)。
(2)財産分与
また,財産分与請求権については,かつては,請求権者が請求権の行使の意思表示をしたかどうかで,相続されるかどうかが決まるとした裁判例もありましたが,現在では,そのことに関係なく相続されるとする例も多いようです。
財産分与と相続財産
熟年離婚の場合,婚姻中に,夫婦の一方または双方が,(自分の親が亡くなるなどして)相続により財産を取得していることも少なくありません。
この場合,相続した財産を,相手に分与する必要があるのでしょうか。
結論からいえば,原則として,相続によって得た財産は,財産分与の対象とはなりません。
財産分与は,夫婦が婚姻中に協力して得た財産・維持した財産を清算するものですから,夫婦の共有財産がその対象となります。
これに対し,相続によって得た財産は,被相続人の死亡という偶然の事情によるものであり,相続人となった人の特有の財産なのです。
したがって,相続によって得た財産は,原則として財産分与の対象とはなりません。
もっとも,その財産の取得や減少を食い止めるために,他方配偶者が協力・貢献したといえるような場合には,例外的に,財産分与の対象となる場合があります。
ただし,相手方が相続財産の取得や減少の防止に貢献したと言えるかどうかの判断は,かなり難しいのが現実です。
特有財産から生まれる収入と婚姻費用・財産分与
相続という観点からはズレますが,特有財産のお話が出たので,せっかくですから,もう一歩踏み込んでみましょう。
先ほどもお話ししたとおり,相続財産などの特有財産は,原則として財産分与の対象になりません。
では,特有財産から生まれる収入,例えば,親から相続した不動産を他人に貸し,これによって得た家賃などは,財産分与の対象になるのでしょうか。
財産分与ではなく,婚姻費用についての事案ですが,夫が,特有財産である不動産を賃貸して家賃収入を得ていた事案で,裁判所は,「婚姻費用の分担額を決定するに際し考慮すべき収入は,主として相手方の給与所得である。」と判断し,特有財産から生まれる収入を,婚姻費用の算定にあたって考慮しませんでした(東京高裁昭和57年7月26日決定)。
婚姻費用に関する裁判例であるため,ダイレクトに考えることはできませんが,この裁判例の考え方からすれば,特有財産から生まれる利益は,財産分与の対象にならないようにも思われます。
しかし,上記裁判例は,結婚から別居までの間,夫が,もっぱら給与で生活しており,相続財産である不動産の家賃収入は,生計に充てられていなかったという事案です。
そのため,仮に,夫が,家賃収入を生計に充てていた場合,特有財産から生まれる利益(家賃収入)が,婚姻費用の算定にあたって考慮されていた可能性も残ります。
結局は,夫婦の協力によって得られた財産・維持された財産を清算するという財産分与の制度趣旨に立ち戻り,特有財産から利益が生まれることについて,他方配偶者の協力・貢献があったといえるかどうかが重要なのかもしれません。
目次
- 第1回 熟年離婚で損をしないために
- 第2回 財産分与
- 第3回 熟年離婚と慰謝料
- 第4回 将来の年金を確保しよう
- 第5回 養育費,相続その他