熟年離婚とお金について押さえておきましょう
【熟年離婚】第2回 財産分与
財産分与は,夫婦の婚姻中に協力して形成・維持された共有財産を,離婚にあたり,清算し分配するものです。
婚姻期間が長ければ,婚姻期間中に形成される財産も多くなるのが通常ですから,熟年離婚の場合には,分与の対象となる財産の種類が多く,その額も大きくなる傾向にあります。
婚姻期間が25年から30年ともなると,1000万円以上の分与を認めた裁判例も散見されます。
財産分与~生命保険~
生命保険金は財産分与の対象となるか
熟年離婚ともなると,分与の対象となる財産が複数に及ぶ傾向にあることは前述のとおりです。
そして,この財産の中に,生命保険金(あるいは,生命保険の保険金請求権)が含まれるケースが比較的多く見受けられます。
若い夫婦の場合,生命保険に加入していても,払い込んだ保険料が高額にのぼることが少なく,生命保険金が深刻な問題となることはそれほど多くありません。
しかし,婚姻期間25年,30年ともなると,相当の保険料が払込み済であることから,解約返戻金が想像以上に高額になっているケースがあり,生命保険金を清算しなければ,不公平なのではないかとの問題が生じるのです。
裁判例の中には,「夫は,本件婚姻前である昭和46年頃から毎月生命保険料を支払って来ていることが認められるが,このような不確定要素の多いものをもって夫婦の現存共同財産とすることはできない」と判示したものもありますが(東京高裁昭和61年1月29日判決),実務上は,夫婦の協力によって保険料の払込みがなされてきたといえる場合,別居時点における解約返戻金相当額を清算対象としていることが多いようです。
分与方法
生命保険金が財産分与の対象となる場合,まずは,当該生命保険を解約し,支払われた解約返戻金のうち,婚姻期間に相応する金額を分与対象とすることが考えられますが,今後の生活や病気になったときのことを考えると,解約をためらわれる方が多いでしょう。そのような場合には,別居時点における解約返戻金額を試算し(保険会社に依頼し,試算してもらうことが多いようです。),この返戻金相当額を分与対象とすることが考えられます。
受取人の確認をしておく
保険契約時に,保険金の受取人を配偶者としていることが多いと思います。
しかし,その状態のまま離婚してしまうと,元配偶者が保険金を取得することになります。
そのため,離婚にあたって,保険金の受取人を元配偶者以外に変更したいという場合には,受取人変更の手続を忘れずにとっておきましょう。
財産分与と税金
分与した側に税金はかかるか
熟年離婚では,かなり高額な財産の移転が行われるケースもあるため,財産分与によって税金が発生するのかどうか,ご心配な方も多いと思います。
財産分与にあたり税金がかかるかどうか,かかるとすればどのような税金かという点は,分与する側と分与される側で異なります。
まずは,分与する側に課され得る税金をみていきましょう。
分与する側に課される可能性のある税金は,譲渡所得税です。
この譲渡所得税は,現金による分与には課されず,不動産や株式,ゴルフ会員権といった資産を分与した場合に課される可能性が出てきます。最高裁判例や,これを受けた所得税基本通達によって,金銭以外の資産の分与が譲渡所得税の対象となることが明確にされているのです。
もっとも,これらの資産を分与した場合に,必ず課税されるというわけではありません。
譲渡所得税は,「資産の売却時の価格が購入時と比べて高い場合」に課されるものですから,これを財産分与にあてはめると,「分与時の価格が購入時と比べて高い場合」に課されることになります。
例えば,夫が妻に対し,財産分与として不動産の所有権を移転した場合,その移転について,夫は,所得税を支払わなければならない可能性があるということです。不動産を分与し,さらに税金も支払わなければならないというのは,納得しがたい面もあるでしょうが,不動産を保有している間に不動産価値が上昇した場合には,所得を得たものとして,その不動産を手放した時点で課税されることになるのです(ただし,特別控除,配偶者控除,長期譲渡所得税についての軽減税率などの利用が考えられます。)。
ただし,最近では,購入時よりも不動産価格が値下がりしていることが多いため,譲渡所得税が発生するケースはそれほど多くないように見受けられます。
分与された側に税金はかかるか
分与された側に課される可能性のある税金として,贈与税が挙げられますが,一般に,財産分与による財産の移転は,贈与ではなく,夫婦財産関係の清算や離婚後の生活保障であると解されることから,贈与税が課されることはほとんどありません。
ただし,(少し脇道にそれる話題ですが,)分与を受けた財産の額が不相当に高額である場合には,相当と認められる範囲を超える部分(財産分与としては多すぎると判断される部分)について,贈与税を課されるおそれがあります。また,課税を逃れるために,形式的に離婚し,財産分与と称して財産を贈与したような場合,(形式的な)離婚よって取得した財産の全額が贈与税の対象となります。
財産分与により不動産を取得した場合,法律上は,取得者に,不動産取得税が課されることになっています。
もっとも,実務では,夫婦の財産の清算として不動産を受け取った場合(清算的財産分与)には,不動産取得税を課さない取扱いとなっているようです。
それ以外の税金
不動産を分与する場合,所有権移転登記にあたり,登録免許税がかかります。
また,不動産を取得した後は,固定資産税が課されることになります。
財産の流出を防ぎたい
熟年離婚の場合,清算の対象となる財産が高額であることが多く,離婚すること自体に争いがないときでも,財産分与についての話し合いがまとまらず,解決までに長い時間を要することがあります。
中には,解決までの間に,分与の対象となるはずだった財産を処分されてしまうケースもあります。財産分与は,夫婦の協力によって形成・維持された財産を清算するものですから,協力関係が途絶えた後に財産を処分したとしても,協力関係が途絶えるまでに形成された財産相当額を分与してもらえるはずです。
ところが,公正証書や和解調書,判決を獲得したとしても,そのときに,相手の手元に財産が残っていなければ,分与(財産の現実の移転)を実現することはできません。判決を獲得したとしても,絵に描いた餅になってしまうのです。
このような事態を防ぐためには,裁判等に先立ち,相手の財産を仮に差し押さえる方法が有効です。
相手が財産を隠してしまうおそれがあるときに,不動産や退職金などを差し押さえ,勝手な処分を禁止するのです。保全処分と呼ばれる手続ですが,緊急を要することが多く,また,限られた時間の中で様々な資料を集め,裁判所を説得する必要があります。
DUONでは,保全手続も積極的に活用し,財産分与の実現や離婚後の生活保障を確実にするよう尽力しています。
第3回に続く