経営者、医師、資産家の離婚における財産分与の注意点
資産をたくさん持つご夫婦が離婚するときには「財産分与」に関するトラブルが発生しやすく要注意です。
一般の夫婦と比べて資産の種類が多く複雑で「財産隠し」も起こりやすく、「財産分与の割合」についてもめごとが起こるケースも少なくありません。
今回は、多くの資産を持つ夫婦の財産分与方法や注意点について、弁護士が解説します。
1.資産家や経営者、富裕層でよくある財産分与トラブル
資産家や経営者、富裕層が財産分与するときには、以下のようなトラブルが発生しやすい傾向があります。
1-1.財産を把握できない、財産隠し
資産の種類が多いと、請求側が共有財産を把握しにくくなります。夫が保険に入っているのを知らない、夫が個人的に運用している金融商品を把握していないなどです。財産分与する側があえて財産を隠し、開示しないケースも多々あります。
1-2.財産分与の範囲
資産家の場合「どこまでが財産分与対象か」もよく問題になります。たとえば「夫が経営している法人資産や事業用の財産は対象にならないのか」などです。財産の取得時期により、財産分与の範囲が限定されるケースもあります。
1-3.財産の評価方法
財産内容が複雑なため、評価方法でも問題が発生します。よくあるのは、夫が経営する株式会社の「自社株」の評価です。非公開株の評価は簡単ではなく一律に計算するのも難しいので、トラブルに発展するケースが多々あります。
1-4.財産分与の割合
財産分与の割合は、基本的に夫婦が2分の1ずつとされます。ただし一方の配偶者が個人的な資質や特殊なスキルによって通常より著しく高額な収入を得ている場合などには、割合を修正される可能性があります。
以下ではそれぞれのトラブルに対し適切に対処する方法をみていきましょう。
2.財産を把握する方法
財産隠しを防止して適切に財産を把握するには、以下のように対応しましょう。
2-1.基本的な財産調査方法
まずは預貯金や保険、不動産や車などの財産内容を調査します。
たとえば預貯金については通帳や金融機関からのお知らせ文書、ネット取引内容などを参照してできるだけ多くの資料を集めます。
上場株式や投資信託などは証券会社から取引内容を証明する書類を発行してもらいます。仮想通貨取引をしている場合、仮想通貨交換所から開示を受ける必要があります。
保険については保険会社から「解約返戻金証明書」を発行してもらいます。
本人からの申請でないと詳細な情報は取得できないので、相手名義の資産は相手に開示させましょう。
2-2.退職金代わりの保険や出資金、自社株も忘れない
相手が経営者の場合、退職金代わりに高額な保険に入っているケースも多々あります。「経営者には退職金がない」と思い込んでいる方もいますが、保険も財産分与の対象になるので、会社関係の保険も忘れずに開示させましょう。
また出資金を出している場合、ゴルフ会員権を持っている場合、自社株を持っている場合なども見逃しがちなので、きちんと財産分与対象に含める必要があります。
金投資、宝石や骨董品、絵画、アンティークコイン、趣味の高額な家具、食器などの動産も忘れてはなりません。
2-3.弁護士会照会や裁判所の職権調査嘱託を利用する
相手が財産開示請求に応じない場合、弁護士法23条照会や裁判所の職権調査嘱託を利用して調べられる可能性があります。
相手が明らかに高額な資産をもっているのに内容開示を拒絶されて困ってしまったら、あきらめずに弁護士に相談してみて下さい。
3.財産分与の範囲について
富裕層、資産家の財産分与では「財産分与の範囲」でもめるケースも多々あります。よくあるのが「法人名義の資産は財産分与対象にならないのか」という問題です。
3-1.法人名義の財産は財産分与の対象にならない
法律上、法人には独立した人格が認められるので、個人とは別に財産を所有できます。
法人名義の財産は配偶者の所有物ではないので「夫婦共有」になりません。基本的には財産分与の対象から外れます。夫が法人名義の車や不動産を所有していても、それらについて清算を求めるのは不可能です(但し、株式等法人の持分については財産分与の対象になります)。
3-2.法人名義でも財産分与対象になる場合
ただし法人とはいっても「名ばかり」で、実質的には夫の個人事業と変わらない場合もあるでしょう。そういったケースでは法人と夫個人を同視して、法人名義の財産についての財産分与を求められる可能性があります。
その他、以下のような場合にも、法人名義の財産が分与対象に含まれるケースがあります。
- 法人の創業時から妻が夫に協力して会社を成長させ、妻にも財産形成の貢献が認められる場合
- 節税目的で、家や車などの夫婦生活に必要なものまで便宜上法人名義にしている場合
法人名義の資産がどこまで財産分与対象になるか判断するには、法律の正確な知識が必要です。迷ったときには弁護士までご相談ください。
3-3.個人事業の場合
配偶者が個人事業主として事業用財産を蓄えている場合、基本的にすべて財産分与対象になると考えましょう。ただし相手が特殊なスキルや資質によって高収入を得ている場合、財産分与の割合が修正される可能性はあります。
3-4.借入について
経営者は事業のために「借入」を起こしているケースも多々あります。
「生活のための借入」であれば財産分与の対象になる可能性がありますが、それ以外のものは分与されません。夫が事業のために借金していても、妻が連帯保証していない限り負担する必要はないので安心しましょう。
3-5.財産取得時期について
財産分与の際「独身時代に財産を取得しているので、財産分与の対象にならない」と主張されるケースもよくあります。財産分与の対象になるのは、婚姻中に形成した財産のみで、独身時代に築いた財産は外されます。
たとえば夫が独身時代にストックオプションの割り当てを受けており、結婚後に権利行使し株式を取得して売却益を得た場合、売却益は「いつ発生した財産」として評価されるのでしょうか?
この場合、そもそも「ストックオプションの権利」自体を独身時代に得ているので、その後の権利行使や売却益についても「独身時代の財産」と評価されます。よって売却益については財産分与対象になりません。
3-6.親や実家から引き継いだ資産について
実家が資産家で、遺産相続や生前贈与によって親から高額な資産を引き継いでいるケースもあります。
婚姻中に得た財産であっても、実家から相続した財産や贈与された財産は共有財産になりません。財産分与の対象にはならないので注意しましょう。
4.財産の評価方法について
多種多様な財産があると、評価方法についてのトラブルが発生する可能性もあります。以下では特に問題になりやすい「自社株(非公開株)」の評価について解説します。
非公開株の評価方法にはいくつかの種類があります。
・純資産価額方式
会社が保有する純資産の価額を評価額とし、株式数で割り算して1株あたりの評価を求める方法です。
・類似業種批准方式
類似業種の上場企業との比較により、1株あたりの評価額を求める方法です。
・配当還元方式
年間の配当額をもとにして1株あたりの評価額を求める方法です。
税制上、同族会社の場合には純資産価額方式と類似業種批准方式を組み合わせて評価すべきとされています。そうでない場合、配当還元方式を用います。
非公開株を正確に評価するには公認会計士などの専門家によるサポートが必要となるでしょう。相手からの提示額に納得できない場合、相談してみてください。
5.財産分与の割合
離婚時の財産分与の割合は、基本的に夫婦で2分の1ずつとします。
ただし一方配偶者が経営者や有資格者、スポーツ選手などの「特殊なスキルや資質」によって多額の収入を得て資産形成した場合には、2分の1ずつにするとかえって不公平になるでしょう。そこで財産割合が調整される可能性があります。
裁判例でも財産分与割合を調整すしたものがあります。
5-1.夫が病院経営者で医師
会社員の妻が、医療法人経営者で医師である夫に対し、共有財産約4億円の半額である2億円分の財産分与を請求したケースです(福岡高裁昭和44年12月24日)。
裁判所は「2000万円」の限度で財産分与を認めました。割合にすると5%となります。
5-2.夫が病院経営者で医師
主婦である妻が、医療法人経営者で医師である夫に対し、共有財産約3億円の半額である1億5000万円の財産分与を請求したケースです(大阪高裁平成26年3月13日)。
裁判所は、夫と妻の財産分与割合を6:4として、妻へ約1億2000万の財産分与を認めました。
5-3.夫が会社経営者
主婦である妻が、上場企業経営者である夫に対し、共有財産約220億円の半額である110億円の財産分与を請求したケースです(東京地裁平成15年9月26日)。
裁判所は、財産の原資がほとんど夫の特有財産であったことや、運用・管理を行ったのも夫であった経緯などを重視し、10億円(5%)の限度で財産分与を認めました。
富裕層が財産分与トラブルを防止するには「婚前契約書」によって財産分与の方法を定めておく方法も有効です。トラブルが発生してしまったら、不利益を受けないように早期に弁護士に相談しましょう。当事務所では特に富裕層、経営者や医師の離婚案件に力を入れております。お困りの方はDUONの弁護士までお気軽にご相談ください。