Q&A 離婚訴訟において反訴が婚姻関係に与える影響について
離婚請求に対し,これを争いながらも反訴として慰謝料請求することは,婚姻関係が破綻しているとの判断の考慮要素とならないか?
事例
私は、妻から離婚請求訴訟を提起されました。離婚はしたくないのですが、万一離婚判決が下されるのだとすれば、婚姻関係を破綻させたのは妻ですから、妻に対して慰謝料請求や財産分与請求を行いたいとも考えています。
でも、財産分与や慰謝料請求したこと自体が、私の離婚意思を推測させる言動と認定されるのではないかと心配です。
問題の所在
被告が離婚請求の棄却を求めていても,他の言動から実際には婚姻継続の意思がないことが推測され,破綻の根拠とされる場合があります(民法770条1項5号に該当)。
裁判例
たとえば、過去の裁判例では、
被告が原告を刑事告訴したこと(東京地判H4.6.26)
被告がいったんは原告との離婚を了承したことがあったこと(東京地判H9.10.23)
被告が原告名義不動産に処分禁止の仮処分を執行したこと(最判H2.11.8)
被告が夫婦関係修復のための具体的な方策の提示をしないこと(大阪地判H4.8.31)
訴訟において相手方の非難を繰り返していること(仙台地判H9.12.10)
が、婚姻関係破綻の根拠とされました。
考察
もっとも、原告の離婚請求に対し,被告がこれを争いながらも(予備的)反訴として財産分与や慰謝料を求めているケースにおいて,婚姻関係が破綻しているとされた裁判例は,そのほとんどが,訴訟における被告の主張・言動以前に(反訴とは無関係に),婚姻関係が破綻していると判断できる事案が多いように見えます。
原告の離婚請求に対し,被告が予備的反訴を提起している事案について,婚姻関係が破綻しているとはいえないとした事案も裁判例上わずかではあるが存在する(裁判例1,2)。
もっとも,これらはいずれも,予備的反訴として財産分与を申し立てたものであり,慰謝料を請求したものではありません。
なお,離婚請求に対し,慰謝料請求の反訴を提起した事案について,同慰謝料請求の事実が婚姻関係が破綻しているとの判断の一因となったものも存在する(裁判例3)。
裁判例3の慰謝料は,離婚に基づくものではなく,婚姻の成立から本訴請求までの過程で人格権等の侵害があったことに基づくものではありません。
結論
弁護士の見解は,予備的反訴であれば関係ない(婚姻関係破綻の一要因とはならない)とするものと,離婚を徹底的に争うのであれば,予備的であっても反訴提起すべきでないとするものとに分かれています。
したがって、予備的であっても、慰謝料請求すること自体が、婚姻関係の破綻を基礎付ける事実となる可能性はあります。
参考裁判例
結論 | 事案 | 理由 | ||
1 | 否定 | 東京地判 | 原告が,被告に対し,婚姻を継続しがたい重大な事由があると主張して,離婚を求めるのに対し,被告が予備的に財産分与を求めた事案。 | 原告が被告と完全に別居することになっ(てから),現在まで約6年半程度の期間が経過しているに過ぎないこと,・・・原告と被告の婚姻生活は47年間の長きにわたっていること,被告は原告に対する愛情を失っておらず,原告との婚姻生活を継続することを希望していることがうかがわれることに照らすと,原告・被告間の婚姻生活が実質的に破綻しているとはいえないというべきである。 |
2 | 否定 | 名古屋高判 | 原告(夫)が被告(妻)に,別居状態が継続していて婚姻関係が破綻している(770条1項5号)として離婚を求めたのに対し,被告が,婚姻関係は破綻していないとして争うとともに,仮に破綻していたとしても,その責任は原告にあり,有責配偶者からの離婚請求は許されないと主張した第一審において,離婚が認められたため,被告が控訴するとともに,控訴審において,予備的に財産分与を求めた事案。 | 控訴人と被控訴人との交流は…ほとんどない状態となり,控訴人は,・・・マンションに転居するなど,控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえるが,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真摯でそれなりの理由のある気持ちを有していること,・・・控訴人と被控訴人との婚姻関係が改善することも期待できる…。以上の諸事情を考慮すれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,現時点ではいまだ破綻しているとまではいえない。 |
3 | 肯定 | 東京地判 | 原告(妻)が被告(夫)に対し,本訴において,婚姻関係を継続しがたい重大な事由があるとして離婚を求めたのに対し,本訴被告が,反訴において,婚姻の成立及び本訴に至る経緯で本訴原告が不当に本訴被告の人格権等を侵害したとして,不法行為に基づき損害賠償を求めた事案。 | 上記事実に加えて,被告は,反訴請求において,原告に対して,原告の結婚から離婚訴訟に至る行動について不法行為責任を追及している。このような被告の訴訟行為は,もはや将来夫婦共同生活を継続していこうとする妻に対するものということはできない(被告本人尋問においても,被告は離婚を容認する旨の供述をしている)。 |
以上