婚姻費用算定表の見方や計算方法を弁護士が解説
配偶者と別居したので、別居後の生活費として婚姻費用を請求したいという場面において、相手が払うと言っている金額が果たして適切なのか疑問が生じるという場合も少なくありません。
そこで、今回は、婚姻費用の計算の際に用いられる婚姻費用算定表の見方や婚姻費用の計算方法について解説していきます。
1 婚姻費用とは?
1-1 婚姻費用とは何か
婚姻費用とは、夫婦と未成熟の子供が生活を行っていくうえで必要となる生活費用の一切のことを指します。
婚姻費用の支払いが問題となるのは、一般的に、夫婦が別居しているケースです。
収入がないあるいは少ない夫婦の一方が、収入が多い他方に対して請求するという形で、婚姻費用が問題となります。
もちろん同居している場合でも、収入がある、あるいは相手方より多い夫婦の一方当事者が婚姻費用を支払わない、あるいは十分な金額を拠出しない場合に問題となるケースがあります。
1-2 婚姻費用の取決めの流れ
婚姻費用を相手方が支払おうとしない場合や相手方から提示された金額に不満があり当事者間で調整がつかない場合、婚姻費用を請求する当事者が、裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
調停では、調停委員の仲介のもとで、当事者が協議をしますが、これが整わない場合には、調停不成立となります。
調停不成立となった場合には、手続は審判に自動的に移行し、裁判所が、調停時に提出された資料や、その後追加された主張や資料に基づいて判断を下します。
その判断に不服がある場合に申し立てるのが、即時抗告となります。
調停以降の裁判所での手続において、婚姻費用を決めるのに一般的に用いられるのが、婚姻費用算定表です。
そして、婚姻費用算定表では適切な金額を算出できない場合には、婚姻費用を取り決める計算式を用いて婚姻費用を計算します。
調停では、この金額を元に、調停委員や裁判官が夫婦双方に合意するよう促し、審判以降の手続においては、この金額に基づいた審判や決定が下されることとなります。
2 婚姻費用算定表とは
婚姻費用算定表とは、簡単かつ迅速に婚姻費用の相場を算定するために作られた早見表で、裁判所が作成して公表しているものです。
先ほども述べましたが、調停や審判などの裁判所の手続で婚姻費用の金額を決めるときに用いられています。
元々は婚姻費用分担額の計算式があるのですが、この計算式が複雑で、事案ごとに計算式を用いて婚姻費用を算定するのが煩雑であるため、これを回避するために婚姻費用が作成され、広く利用されるようになりました。
婚姻費用算定表は、権利者と義務者それぞれの年収、子どもの人数、子どもの年齢を指標として、婚姻費用の金額を定めています。
裁判所のウェブサイトにも掲載されているので、ご興味がある方は一度ご覧ください。
3 婚姻費用の分担額の計算方法
婚姻費用算定表を用いることができないケースもあります。
例えば、子どもが私立学校に通っているケースが挙げられます。婚姻費用分担表の金額は、子どもが公立学校に通っているケースを念頭に置いて作られているのです。
私立学校分の加算が必要な場合には、婚姻費用算定表で婚姻費用を取り決めることが難しいため、計算式を用いて計算することも少なくありません。
以下に、詳しい方法を記載します。
3-1 夫婦ぞれぞれの年収を確定
まず、源泉徴収票や課税証明等を資料として、夫婦ぞれぞれの年収を確定します。
なお、住民税非課税の年収しかない場合は、非課税証明書を資料にすることとなります。
また、本来は働いて収入が得られるはずなのに、それに見合わない低額収入しかない場合や無収入の場合には、潜在的に稼働能力があるものとして、実際の収入を上回る年収があるとみなされるケースもあります。
例えば、無収入の専業主婦の女性は、非課税所得程度の収入があるとみなされる場合が比較的多いといえます。
3-2 夫婦それぞれの基礎収入を計算
基礎収入とは、年収額から公租公課や就労に必要な出費、住居関係費など、婚姻費用に振り分けるべきではない一定金額を控除したものを指します。
基礎収入の割合は、予め決められています。具体的には、年収に応じて何%と段階的に決められていて、例えば、年収が0円から75万円までは54%などとされています。
夫婦それぞれ、年収にその基礎収入割合をかけて、基礎収入を計算します。
3-3 権利者世帯に配分される婚姻費用を計算
権利者世帯に子どもがいる場合には、権利者世帯に配分れる婚姻費用の額は、子の生活費指数というものを使って計算します。
3-3-1 生活費指数
生活費指数とは、家庭の中で、生活費が割り当てられるべき各人1人ずつの割合であり(親1人を100として設定)、統計から導かれた生活費が考慮されています。
子については、年齢によって区分され、公立学校の教育費が考慮されています。
具体的な指数は以下のとおりです。
- 権利者=100
- 義務者=100
- 14歳以下の子=62
- 15歳以上の子=85
3-3-2 権利者世帯の婚姻費用の計算式
子の指数を用いた権利者世帯に配分される婚姻費用の計算式は次のとおりとなります。
(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(100+子の生活費指数合計)÷(200+子の生活費指数合計)=権利者世帯に配分される婚姻費用
注1)200は権利者と義務者の生活費指数の合計となります。
注2)子の生活費指数については子全員分を合計します。
3-4 義務者の婚姻費用分担額を計算
婚姻費用の計算において、義務者の婚姻費用分担額は以下のように計算されます。
3-3で算出された額-権利者の基礎収入=義務者の婚姻費用分担額
これを12で割った金額が婚姻費用の月額となります。
3-5 実例
以下では、ごく単純な例で計算をしてみます。
権利者:年収300万円
義務者:年収600万円
14歳以下の子ども:1人
15歳以上の子ども:1人
- 夫婦それぞれの年収は上記のとおり
- 夫婦それぞれの基礎年収
権利者=300万円×43%(基礎収入割合)=126万円
義務者:600万円×41%(基礎収入割合)=246万円 - 権利者世帯に配分される婚姻費用
(126万円+246万円)×(100+62+85)÷(200+62+85)=264万7953円 - 義務者の婚姻費用分担額
264万7953円-126万円=138万7953円 - 婚姻費用月額
138万7953円÷12=11万5662円
4 高額所得者の婚姻費用の分担額の計算方法
婚姻費用算定表は、給与所得で2000万円、自営業者で1567万円が上限額となっており、それ以上の高額収入が当事者のいずれか一方(もしくは双方)にある場合には、計算方法を工夫して、婚姻費用を計算しなければなりません。
実務上は、以下の複数の方法を事案に即して用いています。
4-1 上限頭打ち方式
算定表の上限年収を超えた年収は資産形成に充てられていると考え、先ほど記載した上限年収を基準として婚姻費用を算定するという方法です。
この方法を用いるのは、上限年収を超過する金額が5000万円程度までが目安と考えられています。
4-2 基礎収入割合修正方式
事案に応じて基礎収入割合を設定し、3で解説した算定方式を用いて婚姻費用を算定するという方法です。
4-3 貯蓄率控除方式
基礎収入を算定する際に、貯蓄に回す金額を控除し、3で解説した算定方式を用いるという方法です。
高額所得者は婚姻費用算定表が想定している年収の人と比較して、貯蓄や資産形成に回す金額が多いという特徴があるため、これを基礎収入の計算に反映させるものです。
4-4 フリーハンド計算方式
3で解説した算定方式を用いず、同居中の生活水準を維持することを前提として、必要な金額を定める方法です。
毎月一定額をもらっていたのであれば、これに住居費相当額を加算して金額を決めるというのが一般的な方法です。
5 婚姻費用の問題は弁護士に相談を
婚姻費用の金額は当事者間で折り合いがつけばそれで問題ありませんが、折り合いがつかない場合には、算定表を用いることができるとは限らず、今回ご紹介した計算方法に則って金額を算定して請求しなければならないこともあります。
一般の方では、対応が困難なので、婚姻費用の計算でお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所は、婚姻費用分担請求に精通した弁護士が在籍しております。どうぞお気軽にご相談ください。