離婚で慰謝料が発生する条件は?弁護士が解説
「離婚するので慰謝料を請求したい」
といったご相談を受けるケースがよくあります。
離婚すると慰謝料を請求できると考えている方が多いのですが、必ずしもすべての事案で慰謝料が発生するとは限りません。
離婚の際には慰謝料請求できる場合とできない場合があります。
この記事では離婚で慰謝料が発生する条件や慰謝料請求できるパターンについて、弁護士が解説します。
離婚を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
1.離婚で慰謝料が発生する条件
離婚する場合でも、必ずしも相手に慰謝料請求できるとは限りません。「お互いに慰謝料なし」で離婚するケースもよくあります。
離婚の際に慰謝料請求するには、一定の条件を満たす必要があります。
まずは離婚で慰謝料が発生するにはどういった条件を満たさねばならないのか、みてみましょう。
1-1.慰謝料とは
慰謝料とは、相手の不法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。
不法行為をされると、被害者は精神的に大きく傷つくケースが多数です。そこでその精神的苦痛を和らげるために金銭的な慰謝料が払われます。
たとえば交通事故(人身事故)の慰謝料は、被害者が事故のケガによって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。
離婚慰謝料も慰謝料の一種なので、基本的には上記と同じ考え方になります。
1-2.慰謝料が発生するのは「不法行為」が成立する場合
慰謝料が発生するには、相手(加害者)に「不法行為」が成立しなければなりません。
不法行為とは、故意や過失によって他人に損害を発生させる行為です。
たとえば交通事故の場合、不注意で相手にケガをさせたり死亡させたりすると不法行為が成立し、加害者に慰謝料が発生します。
離婚の際にも相手に「不法行為」が成立しなければ、慰謝料は請求できません。
2.離婚で慰謝料が発生するパターン
以下では具体的にどういったケースで慰謝料が発生するのかみていきましょう。
2-1.不倫された
相手に不倫された場合には慰謝料が発生します。
ただし不倫で慰謝料請求するには、基本的に配偶者と不倫相手との間に「肉体関係」が必要となります。親しく交際していても肉体関係がなければ慰謝料は発生しないのが原則です。
なお肉体関係がなくてもあまりに親しく交際しており夫婦の平穏な生活に多大な悪影響を及ぼした場合には、少額の慰謝料が認められる可能性があります。
不倫慰謝料の金額
不倫慰謝料の金額の相場は100~300万円程度です。
婚姻期間が1~3年程度であれば100~150万円程度、婚姻期間が3~10円程度であれば150~300万円程度、婚姻期間が10年以上になると慰謝料の金額相場は300万円やそれ以上となります。
不倫慰謝料が高額になる条件
以下のような場合、不倫慰謝料は高額になる傾向があります。
- 不倫の期間が長い
- 不倫の回数が多い
- 不倫した当事者の年齢が高い
- 不倫した当事者の収入や資産が高い
- 被害者がうつ病などの精神病になった
- 未成年の子どもがいる、子どもの人数が多い
- 不倫相手との間に子どもができた、中絶、流産、出産した
2-2.暴力を振るわれた
婚姻中に相手から暴力を振るわれたケースでも慰謝料が発生します。
暴力による慰謝料の相場は50~300万円程度です。
ただし暴力で慰謝料が発生するには、ある程度継続的に一定以上の強さの暴力が振るわれていなければなりません。たとえば婚姻中に1回平手打ちをされた程度であれば、慰謝料が発生しない可能性が高いでしょう。
暴力で慰謝料が高額になりやすいケース
以下のような場合、慰謝料の金額は高額になりやすい傾向があります。
- 暴力の頻度が高い場合
- 暴力が執拗で悪質な場合
- 被害者が大怪我をした場合
- 被害者に後遺症が残った場合
- 被害者が精神病にかかった場合
2-3.モラハラ被害を受けた
モラハラの被害を受けた場合にも慰謝料が発生するケースが多数あります。
モラハラとは「モラルハラスメント」の略で、精神的な攻撃を意味します。
たとえば以下のような行為がモラハラになります。
- 異様なほどに束縛する
- 怒鳴りつける
- ものにあたって暴れる
- 脅す
- バカにした態度をとる
- 決して謝らない
- 無視する
- 子どもに悪口を吹き込む
- 実家や友人との付き合いを絶とうとする
モラハラの慰謝料相場はだいたい50~300万円程度です。
モラハラで慰謝料が高額になりやすいケース
以下のような場合、慰謝料が比較的高額になります。
- モラハラの期間が長い
- モラハラの態様が悪質
- 本人が反省していない
- 被害者がうつ病などの精神病になった
2-4.生活費を払ってもらえなかった
婚姻中、こちらが専業主婦などで所得がないにもかかわらず生活費を払ってもらえなかった場合には、離婚慰謝料が発生します。相手には「悪意の遺棄」という不法行為が成立するからです。
- 悪意の遺棄(あくいのいき)...婚姻関係が破綻しても良いという意図を持って相手を見捨てること
生活費を払ってもらえなかった場合の慰謝料相場はだいたい50~200万円程度です。
生活費を払ってもらえなかった場合に慰謝料が高額になるケース
以下のような場合、慰謝料は高額になりやすいといえます。
- 生活費を払ってもらえなかった側にまったく生活力がない
- 生活費が払われなかった期間が長い
- 払わなかった側が不倫している
2-5.家出された、同居を拒否された
相手に正当な理由なく家出をされたり同居を拒否されたりした場合にも、慰謝料が発生します。
この場合の慰謝料の金額は、おおむね50~200万円程度です。
慰謝料が高額になりやすいケース
以下のような場合には、家出や同居拒否された場合の慰謝料の金額が高額になります。
- 家出や同居拒否した側が不倫相手と同棲していた
- 家出や同居拒否の期間が長い
- 家出や同居拒否した側が、生活費も払っていなかった
2-6.性交渉を拒否された
すべての事案ではありませんが、特に断る理由もないのに性交渉を拒否し続けると、慰謝料が発生するケースがあります。
たとえば若くて健康な夫婦間で、一方が特に理由もなく性交渉を頑なに拒否したため離婚となった場合には、拒否された側は拒否した側へ慰謝料請求できる可能性があります。
ただし性交渉がなかったからといって必ずしも慰謝料請求できるとは限りません。
年配のご夫婦の場合には性交渉がないのがむしろ一般的な場合が多いですし、夫婦の片方が病気などで性交渉できない場合もあります。
セックスレスで慰謝料請求できるかどうかについては個別的な検討を要するので、わからないときには弁護士に相談しましょう。
性交渉を拒否されて慰謝料が高額になりやすいケース
性交渉を拒否された事案で慰謝料が高額になりやすいのは、以下のようなケースです。
- 性交渉を拒否した期間が長い
- 拒否した側が不倫していた
3.離婚しても慰謝料が発生しないパターン
以下のような場合には、離婚しても慰謝料は基本的に発生しません。
3-1.性格の不一致
夫婦の性格が一致しないために離婚する場合、慰謝料は発生しません。
性格が合わない場合、夫婦のどちらかに落ち度があるわけではないためです。
性格の不一致は、日本で一番多い離婚原因です。多くの離婚のケースでは慰謝料請求できないと考えられるでしょう。
3-2.子どもの教育方針の不一致
子どもへの接し方や教育方針などが合わずに夫婦が離婚するケースもよくあります。
子どもの教育方針が違っても不法行為は成立しないため、慰謝料は発生しません。
3-3.金銭感覚の違い
金銭感覚が異なるために離婚に至るケースもよくあります。
たとえば相手が浪費する場合や、反対に相手から厳しく家計を管理されて苦痛を感じる場合などです。
金銭感覚が違うために離婚する場合でも、どちらが悪いというわけではありません。
相手が借金するので独身時代に貯めたお金などで立て替えてあげた場合にも、任意に立替を行っている以上、慰謝料は発生しないのが原則です。金銭感覚の不一致の場合、慰謝料請求は基本的にできないと考えましょう。
生活費を使い込まれたら慰謝料請求できる可能性がある
単に金銭感覚が異なるだけでは慰謝料請求できませんが、相手に落ち度があれば慰謝料が発生する可能性があります。たとえば、相手方に生活費を使い込まれて夫婦の生活ができなくなった場合には、慰謝料が認められるケースもあります。
3-4.宗教観や思想、政治思想の違い
夫婦の宗教観やものの考え方、政治思想が異なるので離婚に至るケースもあります。こういった事案でもお互いに慰謝料を請求できません。
日本では憲法によって思想信条の自由や信教の自由が認められているからです。どのような思想を持とうとも、どのような宗教を信じようとも、基本的には本人の自由であって「落ち度」にはなりません。
相手と政治思想や宗教が合わなくても慰謝料請求はできないと考えましょう。
相手が家庭生活を放棄した場合
ただし相手が宗教活動や政治活動にのめり込んで家庭生活を放棄した場合には、慰謝料が発生する可能性があります。
たとえば相手が宗教活動や政治活動のために毎晩のように深夜に出かけて家事も育児もせずはたらきもしなかった場合などには、慰謝料請求できる可能性があるでしょう。
3-5.長期間の別居
夫婦関係が悪化したとき、冷却期間を置くためなどに長期間別居して、その結果、離婚につながるケースもみられます。
長期間の別居の上の離婚の場合でも慰謝料が発生しません。単に別居しただけではどちらに落ち度があるというものでもないためです。
ただし別居原因が相手の不倫や暴力、モラハラ行為などの場合には慰謝料請求できる可能性があります。
3-6.相手の実家との不和
夫婦が離婚を検討するとき、相手には不満がなくても相手の実家と不和になっているケースがよくあります。妻が相手の実家の姑や小姑から嫌がらせや過干渉を受けるケースも少なくありません。
この場合に慰謝料を請求できるのでしょうか?
相手の実家と不和であっても配偶者本人に問題がなかったら、基本的に慰謝料は発生しません。義実家との不和では慰謝料請求できないのが原則と考えましょう。
ただし相手の実家の親族による嫌がらせが度を越している場合、相手の実家の親族に慰謝料請求できる可能性はあります。
3-7.協議でお互いに慰謝料請求しないと約束した場合
夫婦が離婚する場合、協議離婚と調停離婚、裁判離婚の3通りの方法があります。協議離婚や調停離婚の場合、夫婦が離婚条件を自由に決められます。
このとき、夫婦が両方納得して「お互いに慰謝料を請求しない」と決めると、慰謝料請求はできなくなってしまいます。たとえば相手が不倫していた場合や暴力を振るわれた場合でも、慰謝料請求権を放棄したり慰謝料を請求しない旨の合意をしたりすると、慰謝料請求できません。
いったん合意が成立してしまったら、基本的に撤回はできません。取り消しができるのは相手から脅されて無理やり慰謝料請求権を放棄させられたケースなど一部に限られます。
離婚する場合に慰謝料を請求したいなら、協議離婚や調停離婚の際にも慰謝料請求権を放棄しないように注意しましょう。相手から強く迫られて慰謝料請求を主張しにくい場合には、弁護士に離婚協議や調停の代理を依頼するようおすすめします。
4.慰謝料請求できるかどうか迷ったら弁護士までご相談ください
離婚の際に慰謝料請求できるかどうかについては、個別的な判断が必要となるケースがよくあります。たとえば「性格の不一致が理由の離婚」と思っていても、よく調べてみると相手が不倫している場合は珍しくありません。その場合、気づかずに慰謝料を請求しないで離婚してしまったら、後に慰謝料請求するのは難しくなってしまいます。
また離婚で慰謝料請求するには証拠が必要です。証拠がないのに慰謝料を請求しても、相手は支払いに応じないケースが多いためです。ただ慰謝料発生原因を証明するための証拠集めは簡単ではありません。たとえば不倫で慰謝料請求するには肉体関係を示す証拠が必要ですが、そういった証拠が手に入りにくいケースも多々あります。
離婚で慰謝料請求する場合には、弁護士に依頼しましょう。弁護士であれば個別の事案ごとに慰謝料が発生するかどうか判定できますし、慰謝料発生原因の証拠の集め方もアドバイスできます。
DUONでは離婚問題に積極的に取り組んでおり、離婚に悩む方のサポートに力を入れております。離婚にともなう慰謝料請求をご検討されている方は、まずはお気軽にご相談ください。