【離婚を取消・無効にできる?】条件と方法を弁護士が解説
いったんは離婚届けに署名押印して提出してしまっても、気持ちや事情が変わって「やっぱり取り消したい」と考える方が少なくありません。そんなとき、離婚を取り消したり無効にできたりするのでしょうか?
基本的には離婚の取消や無効の主張は困難ですが、場合によってはできる可能性もあります。
この記事では離婚を取り消したり無効にしたりする方法を弁護士が解説します。
1.離婚の取消ができるケースとできないケース
離婚は取り消せる場合と取り消せない場合があります。
基本的に相手と離婚することに合意して「離婚届」を作成し、納得して役所へ提出した場合には取消ができません。たとえば気が変わったからといった理由では取り消せないと考えましょう。
ただし以下のような場合には取消ができます。
1-1.相手からだまされた
民法では、詐欺や強迫によって無理に離婚させられた場合には離婚を取り消せると規定されています(民法764条、747条1項)。
そこで相手からだまされて協議離婚してしまった場合には取消が可能です。
たとえば相手が不倫を隠して別の離婚理由(借金があって迷惑をかけたくないなど)をでっちあげたために信用して離婚届に署名してしまった場合が典型です。
1-2.相手から強迫された
民法によると、強迫によって離婚させられたケースでも離婚を取り消せます。
たとえば相手が怒鳴りつけてきたり暴力を振るったりして無理やり離婚をせまってきたため、やむなく離婚届にサインしたケースなどです。
1-3.離婚を取り消せる期間
詐欺や強迫によって離婚を取り消すには、だまされたことを知ったときから3か月、あるいは強迫されている状況が終了してから3か月以内に家庭裁判所へ取消の申し立てを行う必要があります。
3か月の期間を過ぎると、詐欺や強迫による離婚であっても取り消せなくなるので、該当する事情のある方は早めに手続きをしましょう(民法764条、745条)。
1-4.離婚を取り消す手続き
詐欺や強迫によって離婚を取り消したい場合の手続きは以下の通りです。
STEP1 離婚取り消しの調停
まずは家庭裁判所へ離婚取り消しの調停を申し立てましょう。調停では、調停委員を介して相手と話し合います。調停委員が間に入るので、当事者同士は顔を合わせませんし、直接話をする必要もありません。
相手も取消に応じる場合には、家庭裁判所が調査した上で「取消しを認めるべき事情がある」と判断されると、離婚を取り消す審判が行われます。
STEP2 離婚取り消し訴訟
相手が離婚の取り消しを認めない場合には、調停は不成立になって終了してしまいます。
その場合、家庭裁判所で離婚取消訴訟を提起しなければなりません。
裁判で、離婚の取消原因(だまされた事実や脅迫された事実)を証明できれば、裁判所が離婚判決を書いてくれます。
たとえば相手から嘘の説明を受けていたLINEやメール、脅されていたことがわかるLINEやメール、音声録音データや暴力を受けたときの傷跡の写真などは証拠になります。削除や処分せずに置いておきましょう。
相手が再婚している場合
相手が離婚後に別の人と再婚している場合、単に離婚を取り消しただけでは解決できません。以前の婚姻と再婚は両立しないからです。
そこで相手と再婚相手に向けて「婚姻無効確認調停」を申し立てる必要があります。
調停が不成立になったら訴訟を提起しなければなりません。
STEP3 市区町村役場に書類を提出
調停や裁判で離婚の取消が認められたら、市区町村役場へ調停調書や審判書と確定証明書を持参しましょう。
すると戸籍から離婚の記載が抹消され、婚姻していた状態に戻れます。
2.離婚が無効になるケース
離婚が無効になる場合もあります。無効な場合、わざわざ取り消しをする必要はありません。
離婚が無効になるのは「離婚の意思」や「離婚の届出」がなかった場合です。
離婚の意思は当事者双方に必要です。どちらかが離婚するつもりがないのに離婚届を提出しても無効になります。また離婚の意思は「離婚届を提出するとき」に必要です。たとえば過去に離婚届を書いて相手に預けていたとしても、提出時に離婚する気持ちがなかったら無効になる可能性があります。
2-1.離婚が無効になるパターン
典型的に離婚が無効になりやすい典型的なパターンとして、「こちらの知らない間に相手が勝手に離婚届を作成して提出した場合」があります。
こういった状況であれば、一方当事者であるこちらに離婚の意思が認められないので無効になるでしょう。
一方、生活保護を受けるためなどの理由により、夫婦2人で結託していわゆる「偽装離婚」をした場合には、「離婚する意思」自体は存在するので離婚が無効になりません。
届出に不備があっても離婚は有効
離婚の届出がない場合にも離婚は無効になります。
ただし民法では離婚届に不備があっても、いったん受理されれば離婚は有効になると規定されています(民法765条2項)。
離婚の届出ないために無効になるケースは実質的にほとんどないといって良いでしょう。
2-2.離婚の無効を認めてもらう方法
離婚が無効であるとしても、何もしなければ離婚届が受け付けられた状態のままになってしまいます。
離婚が無効であると主張したいなら「離婚無効確認」の手続きをとらねばなりません。
まずは家庭裁判所で「離婚無効確認調停」を申し立てましょう。相手も離婚が無効であることを認めたら、裁判所の審判で離婚を無効にしてもらえます。
相手が離婚の無効に納得しない場合には、家庭裁判所で「離婚無効確認訴訟」を起こさねばなりません。訴訟で「離婚届の提出時に離婚の意思がなかったこと」を証明できれば、裁判所が判決で離婚の無効を確認してくれます。
判決書と確定証明書を役所へ持参すれば、役所で戸籍を書き換えて離婚をなかったことにしてもらえます。
基本的な流れは離婚の取り消しを求めるケースと同様です。
2-3.離婚無効確認の期限
離婚無効確認の主張には、離婚取消と異なり期間制限がありません。
ただ離婚から期間が経過すると、相手が再婚するなどして無効になったときの影響が大きくなります。離婚が無効になる事情がある場合には早めに離婚無効確認の手続きを行いましょう。
3.離婚が無効である証拠
裁判所で離婚を無効と認めてもらうには、離婚が無効である証拠を用意しなければなりません。
離婚無効確認に必要な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
3-1.離婚届の写し
離婚が無効になるパターンとしては、一方当事者が勝手に離婚届を作成して役所へ提出してしまうケースが多数です。その場合、提出された離婚届をみれば、本人がサインしていない事実が明らかになるので、離婚届の写しを入手しましょう。
離婚届の写しは、本人が役所へ交付申請をすれば発行してもらえます。
3-2.筆跡がわかる資料
離婚届に自分とは別の筆跡でサインされている場合、「自分で離婚届を書いていない証拠」になります。相手が勝手に書いたのであれば離婚の意思がなかったことを証明しやすいでしょう。
離婚届けの写しとともに、自分や相手の筆跡がわかる資料を用意しましょう。
自分の筆跡については自分で自分の名前を書けばわかります。相手の筆跡については、何か相手が書いたものを集めるか、相手に実際に書かせると良いでしょう。
3-3.離婚届が提出された当時の夫婦のやり取りの記録
離婚が有効になるためには、離婚届が提出された当時に夫婦双方に離婚の意思が必要です。
当時のやり取りで、こちらに離婚意思がまったくないことがわかるような資料があれば無効確認の証拠にできます。
たとえば相手とのLINEやメールなどにおいて、相手から強く離婚を求められておりこちらが離婚を拒否していた事実がわかるようなものがあれば、「離婚届けは相手が勝手に書いて提出したもの」と推測されやすくなるでしょう。
離婚届が提出された当時、相手から離婚を求められて困っていたことを記載した日記なども証拠になります。
3-4.勝手に離婚届を出されないようにする方法
相手が勝手に離婚届を提出しそうな場合には、事前に役所で「離婚届不受理申出」をしましょう。
離婚届不受理申出が受け付けられると、申出人の意思確認ができない限り離婚届が受理されなくなります。
3-5.勝手に離婚届を提出した場合には犯罪も成立する
相手が勝手に離婚届を偽造して役所へ提出した場合、無効原因になるだけではなく「刑法上の犯罪行為」にもなります。
私文書偽造罪、行使罪
相手が勝手に離婚届の署名欄にあなたの名前を書いた場合には、私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立します。
偽造によって作成した離婚届を市区町村役場に提出して離婚しようとしたら偽造私文書行使罪(刑法161条1項)が成立します。
私文書偽造罪や偽造私文書行使罪の刑罰は3か月以上5年以下の懲役刑です。
公正証書原本不実記載等罪
偽造した離婚届が役所に受理されて戸籍に離婚が反映された場合、公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)が成立します。
公正証書原本不実記載等罪の刑罰は5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。
相手が不誠実な対応をとっていて相手による偽造が明らかな場合、刑事告訴をして処罰を求める方法も検討してみてください。
4.同居は強制できないが生活費は請求できる
離婚が取り消されたり無効になったりしても、戸籍上の記載が「夫婦」に戻るだけです。相手が家出した場合などに同居の強制はできません。
ただし夫婦関係が戻れば婚姻費用(生活費)を請求できます。
相手が任意に払わない場合には、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てましょう。
5.離婚後に慰謝料や財産分与を請求する方法
離婚を取り消したり無効にしたりできなくても(有効になってしまう場合であっても)、離婚後に慰謝料や財産分与などの請求ができます。
離婚後に相手に請求できる内容と期限は、以下のようになっています。
5-1.慰謝料
相手の不倫や暴力などが原因で離婚した場合には、離婚後でも慰謝料請求ができます。
離婚後の慰謝料請求ができるのは離婚後3年間です。
相手が支払わない場合、地方裁判所や簡易裁判所で慰謝料請求訴訟を提起しましょう。
5-2.財産分与
夫婦共有財産があれば離婚後も財産分与請求ができます。
離婚後の財産分与請求ができるのは離婚後2年間です。
相手が財産分与に応じない場合、家庭裁判所で財産分与調停を申し立てましょう。
5-3.年金分割
夫婦のどちらか一方が厚生年金に加入していたら年金分割ができます。
年金分割請求できるのは、離婚後2年以内です。
3号分割なら、自分一人で年金事務所へ行って手続きしましょう。
合意分割で相手が協力してくれない場合には、家庭裁判所で年金分割調停を申し立てましょう。
5-4.養育費
こちらが子どもを引き取って育てる場合、子どもが成人するまでの間であれば養育費を請求できます。相手が支払わない場合には家庭裁判所で養育費調停を申し立てましょう。
5-5.面会交流
相手が子供と会わせてくれない場合、子どもが成人するまでの間であれば面会交流を請求できます。相手が応じないなら家庭裁判所で面会交流調停を申し立てましょう。
まとめ
離婚を取り消せるケースや無効になるケースはさほど多くありません。離婚後に相手に財産分与や慰謝料、養育費などを請求したいなら、それぞれ必要な手続きを取りましょう。
取消や無効原因があるとしても、離婚の取消や無効の主張を行うのは簡単ではありません。
離婚の無効や取消、離婚後の各種請求手続きを進める際にはぜひ、弁護士までご相談ください。