借金がある場合は財産分与にどう影響するのか?弁護士が解説
「借金を抱えた状態で離婚する場合、借金は財産分与の対象になるのでしょうか?」
こういったご相談を受けるケースがよくあります。
借金などの負債も財産分与の対象になる可能性がありますが、財産分与対象から外れるケースも珍しくありません。
今回は借金が財産分与の対象になる場合とならない場合、借金がある場合の財産分与の方法について解説します。
カードローンや住宅ローンを抱えて離婚を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
1.借金の種類で財産分与対象になるかどうかが変わる
ひとことで「借金」といっても、その性質はさまざまです。
財産分与の対象になるかどうかも、借金した時期や性質によって変わってきます。
以下では借金が財産分与の対象になるかどうかで場合分けして解説します。
1-1.借金が財産分与の対象になる条件
借金が財産分与の対象になるには、以下の要件を全部満たさねばなりません。
婚姻中にした借金
財産分与の対象になるには、婚姻期間中に借金をした事実がなければなりません。婚姻前の借金が財産分与対象になることはないと考えましょう。
生活のための借金
借金が財産分与の対象になるには、「婚姻生活を維持するための借金」でなければなりません。
たとえば以下のようなものであれば、生活のための借り入れや負債といえるでしょう。
- 生活費が足りないので利用したキャッシングやカードローン、クレジットの負債
- 日頃の食料品などの支払いに使ったクレジットカードの残債
- 家族で使う車のローン
- 住宅ローン
- 子どもの学費、教育費
- 未払いの医療費
- 未払いの水道光熱費
- 未払いの家賃
財産全体としてプラスになっている
借金が財産分与の対象になるには、資産と負債が全体としてプラスになっている必要があります。法律上、マイナスの財産分与は認められないからです。
たとえば預貯金などの資産が500万円あって生活のための負債が300万円ある場合、差し引きでプラス200万円なので財産分与が可能です。
一方、預貯金などの資産が200万円なのに借金が400万円あると、差し引きはマイナス200万円となってしまいます。この場合、財産分与できません。
資産と負債の差し引きがマイナスになる場合、財産分与そのものが行われません。離婚後も負債の名義人が引き続き支払いを継続していく必要があります。
1-2.借金が財産分与の対象にならない場合
以下のような場合には、借金や負債が財産分与の対象になりません。
結婚生活に関係のない個人的な借金
婚姻生活とは無関係な借金や負債は財産分与の対象になりません。たとえば以下のようなものです。
- 個人的な趣味の買い物のための借金
- 個人的な遊興費のための借金
- ギャンブルのためにできた借金
独身時代からの借金
独身時代から借りていた借金は基本的に財産分与対象になりません。ただしもとから借金があり婚姻後に生活のために借りましせざるを得なかった場合、婚姻後に借り足した部分については財産分与対象になる可能性があります。
1-3.事業のための借金について
事業者が運転資金などのために借金した場合、基本的には財産分与対象になりません。
ただし事業資金とは「名目」に過ぎず、実質的には「生活のために」借金する場合があります。
たとえば以下のような場合です。
- 生活費が足りないので事業者の信用を使ってローンを組んだ
- 事業用の車を家庭用に使っていて車のローンを利用している
このような場合、借金が財産分与対象になる可能性があります。
個人事業者の場合、事業用の負債と夫婦の負債の切り分けが難しくなる事例が多々あります。ご不明な場合には弁護士までご相談ください。
2.借金の財産分与の方法
借金を財産分与する場合の手順と具体的な計算例をお伝えします。
2-1.借金を財産分与する手順
STEP1 まずは資産と負債を洗い出す
まずは夫婦の資産と負債を明らかにしましょう。
たとえば預貯金が300万円、保険が200万円あれば資産は500万円分あります。
生活のためのカードローンが200万円あれば、負債は200万円分とします。
STEP2 資産から負債をマイナスする
次に、資産から負債を引き算しましょう。
たとえば資産が500万円、負債が200万円なら差し引きは300万円です。
ここで差し引き額がマイナスになったら財産分与はできません。
STEP3 夫婦で2分の1ずつにする
差し引きされた金額がプラスの場合、夫婦で2分の1ずつに分けるのが原則です。
ただし夫婦が話し合って合意する場合、2分の1以外の割合でわけてもかまいません。
2-2.借金を財産分与する具体例
夫名義の預金が300万円、夫が契約者となっている保険が200万円、夫名義のカードローンが200万円の場合
STEP1 資産が500万円、負債は200万円です。
STEP2 資産と負債を差し引きすると、プラス300万円(500万円-200万円)となります。
STEP3 これを2分の1ずつにすると、夫と妻の取得分はそれぞれ150万円ずつとなります。
具体的には以下のような分け方が考えられます。
- 夫が300万円の預金と200万円の保険をそのまま引き継ぎ、妻へ150万円支払う(200万円のカードローンは引き続き夫が支払う)
- 夫が預金を引き継ぎ、保険は妻へ名義変更して、妻が夫へ50万円を支払う(200万円のカードローンは引き続き夫が支払う)
3.借金を支払う人は変更できない
「借金を財産分与できる」というと、多くの方は「相手が借金を半分払ってくれる」と考えがちです。しかし法律的に「相手に借金の半額を払わせる」のは困難です。
債権者との関係で債務者(支払う人)を変更できないので、離婚後もあくまで「借り入れた名義人」が支払っていかねばなりません。
ただし当人同士でどちらが支払いを負担するかは自由に決められます。
たとえば元夫名義の借金が100万円あれば、債権者は元夫に100万円の支払いを督促してきます。ただしそのうち50万円を元妻が用意して元夫にわたす、などの解決方法は可能です。
借金がある場合の財産分与方法にはいろいろな手法があってわかりづらい点もありますので、迷ったときには弁護士までご相談ください。
4.住宅ローンの財産分与について
借金の中でも「住宅ローン」が残っていると、特に財産分与で問題になりやすい傾向がみられます。
以下では住宅ローンのある場合の財産分与方法をご説明します。
5.家が財産分与対象になるのはアンダーローンの場合だけ
住宅ローンが残っている場合、家が財産分与対象になる場合とならない場合があります。
財産分与対象になるのは、「アンダーローン」の場合のみです。
アンダーローンとは、家の評価額から残ローン額を引いてもプラスになる場合をいいます。
この場合「家の評価額-残ローン額」が家の評価額となり、財産分与対象になります。
たとえば家の評価額が2000万円で残ローン額が1000万円であれば、家の価値は「2000万円-1000万円=1000万円」です。
この1000万円を夫婦で2分の1ずつに分ければ家の財産分与ができます。
オーバーローンの場合は財産分与の対象にならない
家の評価額が低い場合や残ローン額が高額な場合、いわゆるオーバーローン状態になってしまいます。
オーバーローン状態とは、「家の評価額-ローン残額」がマイナスになる場合です。
たとえば家の評価額が1500万円で残ローン額が2000万円であれば、「家の評価額-ローン残額」はマイナス500万円です。この場合が典型的なオーバーローン状態です。
オーバーローンの場合、家は財産分与の対象から外れるので、家は無視して他の財産のみを財産分与対象とします。
6.住宅ローンが残ったときの対処方法
住宅ローンが残っている家がある場合、どちらかが住むか、または売却する方法があります。
6-1.住宅ローンの名義人が住む
1つは住宅ローン名義人が住み続ける方法です。たとえば家の名義と住宅ローン名義が夫になっている場合において、離婚後も夫が住み続けます。
この場合、夫が妻へ清算金を支払って解決します。オーバーローン状態の場合には一方当事者が相手方へ清算金を支払う必要がなく、名義人が引き続き家に住んで住宅ローンを支払っていく必要があります。
6-2.住宅ローン名義人ではない方が住む
住宅ローン名義人でない側が家に住みたい場合には、住宅ローン名義や家の名義を変更する方法を検討しましょう。家に住まない側が住宅ローンを払っていると、いつ支払いを停止されるかわからず住む側にとってリスクがあるためです。
住宅ローン名義を変更するには以下の2種類の方法があります。
現在の借入先の金融機関に名義変更を認めてもらう
1つは現在の借入先の金融機関と交渉し、名義変更させてもらう方法です。
ただし必ず名義変更を認めてもらえるとは限りません。
別途担保を入れるよう要求される可能性もあります。
住宅ローンを借り換える
2つ目は住宅ローンを借り換える方法です。
別の金融機関で家に住みたい側が住宅ローンを借り入れて、現在の借入先には完済します。
そうすれば住宅ローン名義も家の名義も家に住む人に揃えられます。
6-3.売却する
どちらも家に住まない場合には、家の売却を検討しましょう。
アンダーローンの場合はもちろん、オーバーローン状態でも「任意売却」という方法で売却できます。
アンダーローン状態で家を売却した場合には、売却金から経費を引いた残額を2分の1ずつに分けましょう。たとえば家が2000万円で売れて残ローン額が1000万円、経費が300万円かかったら、残った金額は700万円です。夫婦で350万円ずつにすれば公平に財産分与が可能です。
オーバーローン状態の場合、家は財産分与対象にならないので住宅ローン名義人が離婚後に残ローンを払っていく必要があります。
たとえば家が1000万円で売れて残ローン額(夫名義)が1200万円の場合、200万円のローンが残ります。200万円については元夫が離婚後も支払いをしなければなりません。
妻は連帯保証人になっていない限り支払う義務を負いません。
財産分与は弁護士へ相談を
借金や住宅ローンと財産分与については非常に複雑で、ケースバイケースの対応が必要です。混乱してしまう方も少なくありません。
DUONでは財産分与や離婚問題に積極的に取り組んでおりこれまで多くの方をサポートしてきました。お困りの際にはお気軽にご相談ください。