将来支払われる退職金が財産分与になるか

概要

財産分与の対象財産にならないとする根拠としては、

  1. 勤務先倒産や事故、病気、経営不振に退職金減額、国家公務員の場合は国家公務員退職手当法11条以下で、私企業の場合は懲戒解雇等の場合に支給制限がある。
  2. 一般的には退職事由によっても退職金の金額が異なる

こと等が挙げられます。

一方で、退職金が財産分与の対象になるという根拠としては、

  1. 給料の後払い的性格を有しているから婚姻期間中の退職金については精算対象にすべきである。
  2. 年金的性質があるので、財産分与の対象財産とすべきである。

こと等が挙げられます。

結論

近い将来に退職金を受領しうる蓋然性が高い場合には、対象財産になります。

なお、上記結論で判例は確立していますが、金額の評価方法、支払の時期等については、事例ごとに異なります。

定年退職までの期間、業務内容、勤務先の規模・経営状態、退職金規程の内容等を具体的事情によって決定されます。一般的な目安を挙げるとすれば、定年退職までの期間が10年以上あるかどうかが、判断基準になると思われます。

なお、財産分与の対象財産性を否定する場合も、財産分与額を算出する際の一考慮要素とはなり得ますので、請求側であれば積極的に退職金の財産分与について減給していくスタンスが正しいといえるでしょう。

参考裁判例

  • 定年退職まで約7年の私企業勤務の事例について、企業の規模等に照らして、退職金の支給を受けることがほぼ確実であるとして財産分与の対象としたが、夫が支給を受ける退職金について妻の寄与率を夫と同一とみるのは妥当ではないとして、分与の割合を40%としたもの(東京高裁平成10年3月13日判決)。
  • 退職まで約6年の私企業勤務の事例について、将来退職金を受け取れる蓋然性が高い場合には、将来受給するであろう退職金であっても清算の対象とすることができるとし、6年後まで勤務し退職金の支給を受けるであろう蓋然性は十分認められるとして、将来退職したときに受給する退職金額を清算対象とした。支払時期についても、離婚時とした。もっとも、中間利息(年5%)を複利計算で控除した(東京地裁平成11年9月3日判決)。
  • 定年退職まで約8年の国家公務員の事例について、現在自己都合退職した場合であっても退職手当を受給できる法的地位にあるのであるから、妻の協力に対応した範囲で財産分与三艇の基礎財産に加えるのが妥当である。加えないとすれば、かえって財産分与制度の趣旨に反して、公平を失する結果となる。もっとも、支払時期は、退職手当を支給されたときとした(名古屋高裁平成12年12月20日判決)。
  • 信用金庫に勤務しており、退職金支給まで約5年のケースにおいて、別居時に自己都合退職した金額に同居期間を乗じ、それを別居時までの在職期間で除した(割合は2分の1)金額が相当な財産分与額であるとし、別居より以前に婚姻関係が破綻したことを認めながらも、婚姻関係破綻後も同居生活を送っていたことを理由に、退職金の算定期間は同居期間が相当であると認め、支払時期については退職金支払時とした(東京家裁平成22年6月23日)。
  • 定年まで15年以上あるケースにおいて、対象財産性を否定した上で、扶養的財産分与の要素として斟酌するのが相当であると認めた(名古屋高裁平成21年5月28日)。
  • 中小企業金融公庫に勤務しており、定年まで約5年のケースにおいて、将来退職金が支払われる蓋然性は高いが、金額が変動擦る可能性があること等を理由に判決時において金額を確定せずに、退職金を支給された際に、実際に支給された退職金を元に(退職金支給規定の内容に添って認定した)退職金の分与額に関わる計算式に則って、退職金の支給額を認めた。
  • 学校法人に勤務し、約9年後に退職金が支給されるケースにおいて、退職金を財産分与の対象財産としながらも、夫が婚姻関係破綻後も12年間に亘り勤務した後に初めて退職金を取得できることを理由に、妻の取得割合を30%とした事例(支払時期:退職金支払時、将来定年退職した時に支払を受ける退職金額(東京地裁平成17年4月27日判決)。
  • 定年退職まで約5年の国家公務員の事例について、実際に支給を受ける退職金額の2分の1を妻の取得割合とした事例(東京地裁平成17年1月25日判決)。
  • 夫が現時点で退職すれば、相当額の退職金が支給されるが、実際に夫が近い将来に退職する蓋然性が高いとはいえないので、将来の退職時期・支給額等の不明確なまま、退職金を清算的財産分与の対象とすることはできないとし、夫の退職金は、潜在的な共同財産をして財産分与額を算出する一要素として考慮するとした事例(東京地裁平成16年5月28日判決)。
  • 定年退職まで約7年の私企業勤務の事例について、退職金は、賃金の後払的性格があるから、退職金には夫婦としての共同生活を営んでいた際の貢献が反映されているとみるべきであり、財産分与の対象となる。将来支給される退職金であってもその事情は異ならない。もっとも、いつの時点での退職金を清算対象とするかについては、約7年という期間が定年退職による退職金相当額取得の蓋然性が高いとしても、必ずしも確実とはいえず、これを基準とするのは相当ではないため、離婚時において退職すれば支給されるであろう退職金額を基準とした(東京地裁平成15年4月16日判決)。

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