財産分与と住宅ローン
「住宅ローンがある場合、財産分与はどのようになりますか?」
マンションや戸建て住宅を購入する際には、住宅ローンを組む方が多いでしょう。婚姻後に住居としてマンションや戸建て住宅を購入した場合、財産分与はどのようにすればよいのでしょうか。
財産分与は夫婦が婚姻後に形成した財産を分け合う手続きです。
基本的に結婚生活において形成した資産を全部加算し、そこから生活費に関する負債などを控除します。プラスがあれば夫婦で2分の1に分け合い、差し引きがマイナスになると財産分与請求権は発生しません。
住宅ローンは一種の負債なので、財産分与の計算に影響を及ぼします。
今回は住宅ローンつきの家がある場合の財産分与方法を解説しますので、これから離婚する方はぜひ参考にしてみてください。
「アンダーローン」か「オーバーローン」かを明らかにする
住宅ローンの残った家がある場合、まずは「アンダーローン」が「オーバーローン」かを明らかにしなければなりません。
アンダーローンとは、家を売却すると残ローンを完済できるケースです。家の時価が残ローン額を上回っている状態です。
オーバーローンとは、家を売っても残ローンを完済できないケースです。家の時価を残ローン額が上回っていたらオーバーローンになります。
家の時価については、不動産会社に「簡易査定」を依頼すればだいたいの相場価格を把握できます。
残ローン額については住宅ローン償還予定表を確認するか、金融機関に問い合わせれば教えてもらえます。
まずは自宅がアンダーローンかオーバーローンか調べてみてください。
不動産時価額が残ローン額よりも高い「アンダーローン」の場合
アンダーローンの状態であれば、「家の価値-残ローン額」が「正味の家の価値」として財産分与対象になります。
つまり「家の価値から残ローン額を除いた金額」を、夫婦で分割取得します。
たとえば不動産の時価が1500万円、残ローン額が1000万円であれば、財産分与対象財産は1500万円-1000万円=500万円です。
この500万円を夫婦が2分の1ずつ取得するので、双方の取得分はそれぞれ250万円ずつになります。
家を取得した方は500万円分の価値を取得するので相手方に250万円を支払い、残ローンについては自ら返済します。「住宅ローン名義人かつ家の所有名義人」が家を取得して相手に代償金を支払うケースが多いでしょう。
住宅ローンと家の名義人でない側が家を取得したい場合
「住宅ローンと家の名義人ではない配偶者」が家を取得する場合、基本的には名義変更すべきです。しかし現実的に、ローン完済前に住宅ローンや家の所有名義人を変更するのは容易ではありません。
住宅ローンを完済するまで金融機関は所有名義の変更に応じないのが通常ですし、住宅ローン名義人も簡単には変更できないからです。
家を取得したい配偶者が別の金融機関で住宅ローンを借り換えるか、金融機関と交渉して住宅ローンと家の所有名義の変更に応じてもらうしかないでしょう。
それができない場合、「名義人とは異なる人」が家に住み続ける状態になります。
住宅ローンの支払い義務は名義人に及ぶので、居住者は相手に「賃料」を払うなどして住宅ローンの全部や一部を負担する必要があるでしょう。
家を売却して清算する
アンダーローンの場合、家を売却して清算する方法も選択できます。
売却金から経費を差し引いた残額を夫婦で2分の1ずつに分け合う方法です。
たとえば家の時価が1500万円、残ローンが1000万円で売却諸経費が200万円の場合、手元に残るのは1500万円-1000万円-200万円=300万円。これを2分の1ずつに分けるので、夫婦それぞれの取得分は150万円ずつになります。
残ローン額が不動産の時価額を超えるオーバーローンの場合
オーバーローンの場合、不動産はマイナスの財産となり財産分与の対象から外れます。
家は「無価値(0円)」の財産として扱われるので、負債の分与は行われません。
たとえば住宅の価値が1000万円、残ローンが1500万円の場合、家の価値は-500万円です。この場合、家は無視して他の預貯金などの資産のみを財産分与の対象にします。
残ローンは、あくまで「住宅ローン名義人」が「金融機関などの債権者」から借り入れた負債なので、住宅ローン名義人が引き続いて支払わねばなりません。離婚したからといって住宅ローンの負担者を変更できないので注意が必要です。
ただし夫婦間で債務の負担割合を決めることはできます。たとえば住宅ローンの残額が1500万円、家の価値が1000万円の場合、残ローンのうち500万円を夫婦間の約束で250万円ずつ支払うなど。
ただし金融機関との関係では債務者を変更できないので、あくまで当事者間の約束事として事実上2人で住宅ローンを返済することになります。滞納した場合には、住宅ローン名義人が支払いの督促を受けます。
連帯保証人になっている場合
住宅ローンを組むとき、一方配偶者が主債務者となって他方が連帯保証人になるケースもよくあります。主債務者が家を取得するなら、家を出る配偶者は連帯保証を外してもらわないと離婚後に支払い請求を受けるリスクが及びます。
具体的な状況にもよりますが、別担保を差し入れるなどの方法で連帯保証を外せるケースがあります。
金融機関に交渉を持ちかけて、資力の高い親族を連帯保証人として差し替えたり、資産価値の高い不動産を抵当権に入れたりする提案をしてみましょう。
難しい場合、別の金融機関で住宅ローンの借り換えを行い、連帯保証人を外す方法も検討してみてください。
住宅ローンが残っているなら弁護士へご相談を
住宅ローンの残った家がある場合、財産分与の方法が複雑になります。きちんと対応しておかないと、離婚後に残ローンの一括請求をされたり居住者が家を追い出されたりして、不利益が及ぶリスクも発生します。
弁護士にご相談いただけましたら状況に応じたベストなご提案をさせていただきます。金融機関との交渉も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。